北海道における総合交通政策の必要性
重 森 直 樹
ま え が き
戦後の日本経済は一貫してめざましい発展をとげて来たが、近年における経済成長は特に著しいものがあり、1965年から70年までの5年間の経済成長率は年平均12.5%に達し、経済的先進国としての地位を築きあげるのに成功した。
しかしながらこうした経済社会の高度成長は交通部門に対し継続的な量的拡大と質的改善を要請し、その要請は都市間都市内旅客貨物を問わず、交通のあらゆる領域に及ぶこととなつた。
このような要請に対して、各交通機関はその与えられた条件の下でできる限りの努力を続けて来たが、経済社会の発展と変化は量的にも質的にも交通部門の限界を超える需要を強いる結果となり現状では各所に需給のアンバランスを生ずるに至つている。
また、こうした経済要請にもとづくアンバランスと共に見逃すことのできない問題として交通公害、交通規制、都市再開発への障害、過疎化など社会的側面への深刻な悩みが発生しつつあるのが現状である。
従つて、このような事態を放置しておく時には、経済的にも社会的にもそ発展の重大な障壁となるのみならず、国民生活上にも悪影響を与えることは火を見るよりも明らかである。
そこでこうした交通上の諸問題を解決するためには、国の交通政策を含む交通の供給体制について抜本的に再検討を加え、当面の交通対策を具体的に樹立すると共に今後の社会経済の動向にマツチし技術革新を積極的に取り入れた将来対策をたてる必要がある。
そして、その対策の基本的な立場は今までの交通政策の個別化から脱皮して総合化ヘ向う必要がある。
即ち各種の交通機関はそれぞれの機能と特殊性ををもっているが社会の発展の高度化にともなつてそれらは今後ますます多様化するがその需要に応じての機能と特殊性が十分に活かされず国民経済的に不経済となり社会的にも悪影響を生ずる結果となる。したがつて将来の経済発展の方向、特に社会産業構造の変化を十分に把握しそれらの旅客貨物を能率的に輸送するための各種交通機関の特殊性をそれぞれ有機的に結合させた交通体系をつくりあげでいく必要がある。
また、交通それ自体の面からとらえるならば都市内における交通混乱、交通公害、交通事故など住民にあたえる交通上の諸問題が問題となり都市再開発上の重大な隘路となりつつあるが、こうした交通上の弊害を除去し都市住民に苦痛ならず健康で明朗な都市にすべき策を樹立する必要かある。
さらにこうした旅策をたてるに当つては、単に交通関係者に止まらず、広く道路、開発など交通に関連する官庁、諸団体が各々協力して将来計画、具体案の作成を行ない国民経済的にもプラスとなり道民の生活にもプラスとなる交通体系を確立して、北海道第三期総合開発諸政策寄与することが望ましい。
現状 産業構造の変化と交通上の諸問題
1
日本経済の発展の中にあつて、北海道の経済成長もめざましいものがあり、特に昭和27年以降北海道総合開発計画を中心に展開された経済諸施策は北海道の産業構造に著しい変化を及ぼした。
全国的にみれば、第二次産業の比率は全国なみの伸び率を示しておらず低位に止まり第一次産業第三次作業等に依存しているといわれているが内容的にはそれぞえの産業構造にかなりの変化があらわれた。
(1) とくに、道内において目だつた動きを示したのは昭和38〜40年を頂点として石炭産業が衰微したことである。これがため炭鉱の閉山が相次ぎ石炭の流通も変化するとともに、人口の流出が行なわれ社会構造も変化し中には過疎化現象も発生している山元もある。
これらの石炭産業の衰微とは逆に他産業のエネルギー源として石炭から石油への依存度が高まり、特に港湾地区の石油業者の進出がめざましくその発展の伸びはめざましいものがある。
(2) また、第一次産業の主体をなす農業については、政府の手厚い保護と農業技術の改善により農産物の生産量の増加がみられ特に食管法により支えられた米作地帯については、その生産量は異常なまでに増加し食糧供給基地としての北海道の位置づけがはつきりしてきた。また、農業所得も米作農家は畑作農家に比しはるかに高く農村のレヂヤーに対する関心度が高まつた。
(3) さらに畑作農家の相対的所得の低下と第三次産業の都市における発達は山村地区の離農現象をひきおこし過疎化という社会現象を発生させる結果となつている。
(4) 林業については、北海道及び本州における木材需要の伸びは大きく道内資源のみにては到底不足がちであり輸入材、輸入チツプに依存せざるを得ない。道内生産材については生産地における製材加工か盛んとなり、商取引も変化した。パルプ用原木チップについては港頭製紙2工場への供給がめだっている。
(5)水産業については沿岸漁業の不振、遠洋漁業への依存が高まり、漁獲量もほぼ頭打ちの状況で沿岸漁業の育成のため魚礁など魚類保存と“とる漁業”から“育てる漁業”へと方向転換を行なつている。鮭鱒など高級魚介類は好調であるが、量的には少なく本州移出への傾向が強い。下級大衆魚については道外移出は年々減少傾向にある。
(6)第二次産業である製造業加工業についてみると、北海道のそれは全国のそれと比べてまだまだウエイトが低い。産業別就業者の構成、産業別生産所得の上昇率及構成比、製造業種別出荷額からみてもこのことが分る。また地域別生産所得の成長率、就業構造の増加率からいつても北海道の第二次産業の伸びは全国のそれに比して低い。つまり北海道の産業構造は伸びの低い第一次産業と鉱業の比重が全国に比べて極めて大きい反面、伸びの高い製造業の比重が小さい。このことは生産所得の多くの部分を伸びの低い産業に依存しており、この結果北海道の所得全体の伸びを低くおさえているといえよう。
北海道の第二次産業のなかで最近道央道東港湾地帯を中心に機械金属工業等の重化学工業がかなりの進出をして来ているが全国のそれに比べて著しく立ちおくれておりー般的には紙、食料品、木材、鉄鋼窯業などの資源立地型の軽工業が多く、各産業間の有効的関連補完の程度が全国に比べてうすく、また投資や消費などの地域需要が増大してもその波及効果を産業構造内部にうけとめて各産業を潤すことやその拡大発展ひいては道民所得の増大へと押しすすめるだけの充分な力がない。
しかしながら、これを道内のみについてその伸びをみると鉄鋼、機械、石油、石炭製品、窯業石(セメント)、紙パルプ、食料品、たばこの伸びが全道平均を上回つている。これらの工業の大部分は港湾地帯及び内陸の一部で行なわれ今後の開発計画をみると道央、道東地区にその発達のテンポが著しい。
(7) 第三次産業は第二次産に比し全国的にも高いウエイ卜をもつている。特にサービス業、商業などの部門のウエイトは産業別生産所得の上昇率は全国を上回つているがこれらの部門は主として都市を中心に行なわれており人口の都市集中化は北海道において著しいものがあり第一次産業の停滞性は逆に過疎化という社会的現象をひきおこすまでになつている。
2 こうした産業構造の道内における変化は道路網のここ数年間における急速な整備、港湾の整備と相まつてバス、トラック、マイカー、内航海運、航空機の著しい発展をもたらした。いままで北海道開発のパイオニアとして道内にその独占的地位を保つていた鉄道の部門は次第に蚕食されるに至つた。また産業構造の変化とそれにともなう物資、旅客の流動の変化は今までの交通体系に大きな変化をあたえた。
(1) 山林地区における鉄道と併行した道路の建設によつてバス、トラツク、マイカーの進出がめざましく今までの鉄道の優位性を完全にくつがえした。特に近距離圏については荷主及び利用客の減少が目立つており特に過疎化山村においては需要供給のアンバランスのため鉄道もバス、トラツクも過当競争のあまり経営不振に陥り、バスなどは路線を休止する状況がつづいている。
(2) また、産業構造の変化、特に石炭産業の衰微、石炭、石油、木材(チツプ)などの発展によつて内陸地帯から港頭へという流動が港頭から内陸へと流動に変化した。港湾と消費地の立地条件道路港湾の整備などから鉄道による輸送需要もトラツク自家用車による輸送へと変化した。
例えば室蘭、小樽の国鉄の石炭積出は現在行なつておらず留萌、苫小牧の港湾で扱つているにすぎず石炭輸送は100〜200万トン減少しつつある。石油は家庭用暖房をも含め室蘭、苫小牧から札幌方面へ留萌、釧路からは内陸各都市へタンクローリーの進出がめざましくなりつつある。
また、セメントにつては山元―工場―鉄道―消費地という姿に変り、港頭から内陸へという姿に変りつつある。
木材については本州向けを除けば殆どがトラツク輸送となつた。山元―駅頭土場―鉄道―消費地がその取引状況も変り、地元製材ということもあつて、山元―トラツク―消費地となり、パルプ用原木チツプについても同様の姿となり、鉄道でも大単位のピストン輸送でも実施して効果を見出さない限り、紙工場系列のトラツクにより輸送される現状である。
重化学工場特に機械金属工業港湾地区への進出は現在のところ原料輸入―製造―移出(船による)でその進出ぶりのめざましさにも拘らず道内産業に与える影響をも少なく、輸送にあたえるプラスは殆どない。しかし一般的に第三次産業のもととなる一般雑貨的な物資、例えば電気製品や日用雑貨については道内周辺に本州企業の進出がめざましく、海上コンテナによる周辺港頭への陸上げ―トラツクという姿が目立つているが本州―鉄道―北海道という姿もそれほど極端な痛手をうけていない。これは第三次産業のウエイトの高い北海道としては当然のことかもしれない。
ただし遠距離に発送される物資(大量物資)、例えば農産物(馬鈴しょ、玉ねぎなど)酪農品、木材、紙などについては山村地区であつても鉄道を利用する荷主は多い。しかし迅速性を要する水産物特に高級魚類については、トラツクによつて本州まで冷凍トラツクにより輸送される傾向が顕著になりつつある。これは鉄道としては本来的には輸送方法の近代化がおくれているためであり、何らかの方法で公正な分野を確立する必要がある。
(3)
第三次産業は、都市周辺にめざましい発展をとげているが、この結果人口の都市集中化がめだち、都市周辺の輸送力は、道路の発展にもかかわらず極端な混雑振りを示している。
特に都市をとりまく宅地及び団地造成によつて通勤通学客の利用がめだち、バス、鉄道の協力体制によつてこれを合理的にさばくことに腐心している。この点はまさに山村地区と逆な現象を生じている。特に都市間の旅客輸送については、道路と鉄道の適切な配分と協調が必要であり、観光シーズンにおける道内旅客の混雑をどのように調整するかが重大な輸送上の隘路となつている。
また需要の多い都市周辺につては、バスの増加が目立つており、バス同志の運賃ダイピング、鉄道とバスの運賃の競争が行なわれ、経営上かなりの傷手をうけている。
また経営悪化を理由にバス運賃の値上げを要求し、市民生活に脅威をあたえるという奇妙な現象すら生じている
(4)
都市における交通問題は、バス、トラツクの増加、マイカーの増加によつて都市内の交通規制を余儀なくされ、それでもやはり交通混雑は一層そのひどさを増しつつある実状である。特に札幌駅前の混雑は都市計画の今後に重大支障を及ぼし、高架化との問題ともからんで都市再開発のネツクになりつつある。
さらに都市の人口集中化にともなつて、物資流通は不円滑となり、さらに消費量の増加は物資流通施設(倉庫)の増設を必要とするが、この施設から市内への交通規制が現状の札幌市においてもはや限界に達しつつあり、何らかの施策を必要とする段階に入り、交通公害(排気ガス、騒音、死傷事故)も市民の生活を脅しつつある。
こうした産業構造の変化にともなう交通上の変化と問題の発生は、今までの北海道の開発のパイオニアとしての鉄道の独占的地位をバスやトラツクやマイカーにゆずらざるを得なくなり、鉄道としては、その使命の終わったところを撤退し、短距離(200km)をバス、トラツクにゆずり、長距離を大量に高速に輸送していく方向へ体質改善を余儀なくされている。鉄道が経営を維持するためには、縮少再生産の過程で要員の合理化と営業改善を強力に実施し、国民経済的にみて不経済で住民の生活に殆ど影響しない線区を廃止及至は合理化し、拠点駅を整備していく体制をとつている。(営業新体制)
※この赤字線については現在第2国鉄論など論議をかもしている。
原 因 と 対 策
こうした道内における交通上の問題の発生は一言にしていえば、北海道における経済成長に交通が追いつこうとする余り無秩序に道路港湾などの整備が行なわれバス、トラックの跳梁を許した結果、既存の鉄道との競合が、当然問題になるにもかかわらず、それに目を掩い、合理的な交通体系を誰もが考えず、適切な施策を講ずる会議すらもたれず経済発展に即応した総合交通施策が確立されなかつたことがその原因となつているのであろう。
勿論その都度発生した、いくつかの交通問題については、その都度解決されては来たが、それがかえつて問題の累積をのこす結果となり、根本的な解決とはならず、全体的な北海道の開発計画及び、経済成長にかえつて支障となりつつあるのが現状である。
交通は一般的に経済産業の動脈といわれている。この動脈の硬化を早急に防止して経済成長が順調に合理的に、しかも効率的に行なわれるような施策を講ずる必要がある。
第三期の総合開発計画にも、新交通通信体系の綜合的先行的整備が大きくとりあげられているが、そのなかで「今後の交通輸送については、道路、鉄道、港湾、空港などの果す役割と機能を考慮し、道、本州間の輸送体系としては、国土の主軸の一貫をなす青函トンネルと、新幹線鉄道の建設、国土開発、
自動車道の整備、国際空港、港湾などの整備充実を促進し、長距離、大量、高速輸送の需要に応えるとともに、道内においては輸送量の増大に対処して、幹線鉄道の近代化、都市間輸送力の強化、道内一円を結ぶ道路網の先行的な整備をはかり、さらに交通機関相互の結果一貫輸送体系の確立を促進する。」とのべられている。
このように、第三期綜合開発のなかで大きくとりあげられたのは、今回が始めてで交通の北海道経済に果す役割を大きく許価したということの証左であろう。
しかし、こうした交通の問題をとりあげていくにあたつては、やはり問題を処理する機関とその解決策を総合的に開発計画の度合に応じ樹立していくことが肝要であり、単なる唄う文句ではやはり問題は解消しない。
そこで問題を解決するに当つて今後の開発計画が具体的にどのように進められていくか。その開発の進展につれて、どのような産業が発達し、どのような産業がすたれていくか、それにつれて物資の流動はどのように変化していくか、また人の流れがどのようになるか、そして、その輸送は鉄道、トラツク、自家用車、航空機、内航海運の何れが適しているか、また、相互に結合させるにはどうしたらよいのか、港湾、道路、鉄道の現状及び将来計画ならびに、交通機関の特性を考慮に入れて、匡民経済的に効率的な輸送体系をつくりあげる必要がある。つまり、
1. 交通需要の予測を把握すること。
経済成長、地域開発政策、都市計画など国の経済、社会政策の方向、国民生活様式の変化、交通機関の技術革新を考慮に入れて、マクロ経済、地域経済の予測、マクロ交通予測、地域内、地域間交通需要予測、交通機関別需要予測、交通投資
2. 交通手段の配分を行なうこと。
旅客については、旅行目的、費用負担、年令層、性別、所得レベル、グループサイズなど、諸種の条件によつて費用、所要時間、フリーケンシー、乗換の有無、安全性、快適性などのサービス基準を綜合的に判断して決定する。
貨物については、品目及びロツトの大きさによつて運賃、時間、安全性の選択度が異り、更には、輸送条件だけではなく、梱包、荷役、保管を一貫した物的流通コストによつて選択する。
3. 交通施設の整備を行なうこと。
交通施設(道路、港湾、鉄道)の整備をどのように行なうかについては、どの交通施設が、費用便益の点でまさつているかを検討した上で決定する必要がある。
例えば、アメリカ運輸省が新輸送方式開発の際に使用した費用便益分析の評価要素は、
4. 交通機関の特性をいかすこと。
単位輸送量あたりの費用を距離及び輸送量の関数として計算し、費用最少という観点から比較する方法が簡単なやり方として用いられているが、多少厳密さを欠くが、これによって求められる特性を十分活かしていくべきである。
一般的に自動車はその機動性と合わせて考えて主として地域内における面的輸送を行なうべきであり、鉄道は大量輸送あるいは中距離の分野にその特性があるといわれているが、こうした特性をそれぞれ活かし、その機能を互に補完し合い、いわゆる協同一貫輸送を確立し、流通コストの低減をはかる国民経済の発展に寄与することが肝要である。
こうした交通の総合的な検討は各々の交通機関のみならず、交通に関連する官庁、議会社、団体が、相協力して現状、将来計画について十分協議し合い綜合的な施策を樹立する必要がある。そのために陸運局においては、陸上交通審議会が設置されているが、これを十分活用するか道庁にこれらの意見を反映させ知事の諮問機関的性格をもつた綜合交通政策会議(仮称)を設置して、鉄道、道路、港湾、産業、都市計画など交通に関連する官庁諸団体の意見を求め、総合的な交通施策を行なうべきである。
当面、検討を要する事項としては国民経済的に効率的な道内交通体系の確立、対本州交通体系(青函トンネルを含む)の確立、都市圏輸送体系の確立、交通公害の防止があげられる。
(筆者は国鉄道総局調査役、本稿は45.12.11講演の要旨である)
会 務 報 告
| 45.12.11 | 14時より建設会館会議室において、国鉄重森調査役を招き「北海道の交通総合政策」について請演を伺う。会する者瀬藤副会長他27名で盛会であつた。請演要旨は別稿のとおりです。 |
| 46. 3. 5 | 11時30分より建設会館2F会議室において役員会を開催し、かねて本会に委託された「青函トンネル建設に伴う諸対策調査」及び「北海道縦貫自動車道苫小牧・千歳関連公共事業調査」についての報告会を行ない、主として会員町田真也君より説明があつた。 |
委託調査について
1. 北見市長より「北見市における交通計画策定」を昨冬11月25日委託されたが、12月25日完了した。委託金額は600,000円である。
2. 日本道路公団東京支社より「北海道縦貫自動車道苫小牧千歳関連公共事業」を昨冬11月25日委託されたが、今年2月15日完了した。委託金額は250,000円である。
3. 北海道より「青函トンネル建設に伴う諸対策調査」を昨年7月委託されたが、昨年11月14日完了した。委託金額は1,000,000である。
会賀値上げについて
既に132、133合併号及び134号て再度に亘りこ通知申上げましたが、愈々明46年度より年会費を個人については1000円に引上げることとなりましたので、事情ご省察の上ご協力下さるようお願いします。