<講 演>
防衛上の諸問題と本道の交通
近 藤 靖
本講演は前北部方面総監でありました近藤靖氏に在住の東京よりお出でをいただき、去る2月12日札幌東急、ホテルにおいて、交通研究会主催で発表されたものです。当日、講演の後、質疑応答もありましたが、本誌には講演だけを掲載しました。
(講 演 内 容)
はじめに
| 1. | ソ連の現状 | ||
| 1−1 | 米ソの国防費 | ||
| 1−2 | 80’ 年代中期の危機 | ||
| 2. | 西側諸国の対応 | ||
| 2−1 | 西側諸国と日本の防衛費 | ||
| 2−2 | 昭和56年度防衛予算 | ||
| 2−3 | わが国の防衛上の欠陥 | ||
| (1) | 人の問題 | ||
| (2) | 装備及び訓練の問題 | ||
| 3. | 北海道の交通と防衛 | ||
| 3−1 | 本土との交通 | ||
| 3−2 | 道 路 | ||
| 3−3 | 鉄 道 | ||
| 3−4 | 開発計画における防衛上のファクター | ||
はじめに
現職を退きますまで約4年間、北海道で自衛官として最後の勤務をさせていただきました。その間たいへんに皆様方にお世話になりましたことをあらためてお礼申し上げます。
昨年3月退官しましてから約1年近くもう野人でございまして、最近のいろいろな防衛問題あるいは防衛庁の施策についても直接タッチしておりませんし、ご承知の宮永事件以来、私ども野に下ってから六本木の防衛庁に非常にきびしい敷居がございまして、OBであろうと非常に冷たく扱われる昨今で、なかなかホットな現時点の責任官庁の考えあたりも、必ずしもよく掌握をしておりません。従いまして、私の今から申し上げますお話も、あるいは的を得ていない面があるかもしれないことをご了承いただきたいと思います。それから、次に一実は町田さんのほうから『北海道の交通網における防衛的課題』という、やや専門的な命題をいただきまして、3週間になるわけですが、私は幅の広い防衛というなかでの交通の位置づけということについてはいろいろタッチしてまいりましたが、交通そのものの専門家ではございませんので、お許しをいただきまして現在のホットな防衛の問題に関連するいろいろな問題点をお話ししまして、最後に交通間題あるいは輸送の問題等について部隊として、いろいろ悩んでいることをつけ加えさせていただくということで、
ご勘弁願いたいと思います。
1. ソ連の現状
私、 4年間北海道におりまして、
この間の防衛に関連するいろいろな具体的な事象に際会したわけであります。
51年の9月に函館空港にミグ25という招かれざる客が突然舞い降りてきた事実。あるいはそれと相前後しまして領海12カイリの時代に入った。さらにその後53年の春にはご承知の北方領土へのソビエト地上軍の配置が行なわれた。こういった事象に際会しました。こういったものもひとつのきっかけとして防衛問題がにわかにクローズアップされてまいったわけであります。
1−1 米ソの国防費
そこで、色々国内で論議されておりますが、基本的にはやはり米国とソ連の軍事力の対比というのの中でアメリカの力というものが、相対的に弱まってきたということを指摘しなければならないと思います。
よくGNP論議が出てまいりますが、図1を見ていただきたいと思います。
これはちょっと古いんですが、1979年度のイギリスの国際戦略研究所が出しましたミリタリーバランスからとった資料で、主要各国の国防費の対比、GNP比でございます。一番左のソビエトをみますと、GNPの11%〜13%くらいの国防費を投入している。しかもこの投入費が1965年度くらいからうなぎ登りにふえている。
というのが事実であります。もうひとつ、図2h(a)を見ていただきたいと思います。これはアメリカの国防省が昨年出しました年次報告の中からとった資料でありますが、左がトータルのアメリカとソビエトの防衛支出の比較であります。
これをみますと、USSRというのはソビエトでございますが、 1960年ごろから急速にカーブが高まっております。丁度1980年前後でちょっと色が変わっておりますが、1980年以降はおおむね3%ぐらいの増加率で増えるであろうという推定ですが、過去約2年間をみましてもソビエトの軍事支出がいかに急カーブに上がっているかということがわかります。それに比べまして、
アメリカの線表は実線で書かれておりますが、 1965年〜1975年に点線の急カーブが上ヘ上がっております。これはベトナム戦争の戦費でございます。With
south east Asia
これはベトナム戦争のための戦費を含むと。アメリカの軍事費はこの時期にこれだけ上がっている。
ベトナム戦費を除きましたものが実線であります。これを見ますと1970年、1968年くらいからアメリカの軍事費はダラダラと下降線をたどってまいったわけであります。
これはベトナム戦争によるアメリカの国内の色々な問題あるいはソ連とのいわゆる緊張緩和といいますか、デタントは続いておるんだというような意識からアメリカの軍事費は下降線をたどっていったわけであります。それが1978年ごろからどうもおかしいと。デタント、デタントというけれども気がついてみたら、ソビエトの軍事費の増大がきわめて急カーブで上がっておる。今はいいけれど、これから数年後いったいどうなるのだろうか、というのがアメリカの反省でありまして、1979年、1昨年あたりからアメリカの軍事努力がようやくまたもちなおしてきた、そして現在に至っている。
というのが現状でございます。
ソビエトの軍事費は公表しておりませんので、推定であります。これはソビエトの軍事費がアメリカのドルになおしてアメリカがもし、やるとすれぼどのくらいかかるだろうという推定のもとにあげた数字であります。それから図2−(b)でありますが、これは米国とソビエトの軍事の投資の比率であります。人件費とか、糧食費とかこういったものを除いた純枠の軍事投資でございます。装備とか軍事施設の建設とか、これに投入した経費の比較がこの線表にのっておりますが、これをごらんになりましてもソビエトの軍事費の投資がいかに急カーブに上がっていることがおわかりになると思います。私が感じますのは、ソビエトの軍事投資が大きいというのはひとつは人件費がたいへん安いといいますか、おさえられているということであります。アメリカの場合は人件費がだいたい40%〜50%くらいいっていると思いますが、ソビエトの場合は西側の計算でいきますと、だいたい軍事支出の15%ぐらいで済んでおる。極端に言うと、非常に低給与でソビエトは人件費をおさえており、その分を軍事投資の中に投入しており、総額の比較よりも、投資の比較でいきますと、ソビエトがはるかにアメリカより高いといえます。このへんが民主主義体制と社合主義体制の違いではなかろうかと思うわけであります。
それからーつ問題だと思いますのは、ソビエトが民間防衛にたいへんな力を入れておりまして、推定によりますと、すでに約6,000万人分くらいのシエルターといいますか、地下施設というものをつくっている。それに対する投資額もアメリカの10倍ぐらいの投資額を使っている。年額で10億ドルくらいつかっていると推定をしております。このようにしてソビエトは軍事努力を統けてまいりました。その結果ヨーロッパのNATOとワルシャワ条約軍の軍事バランスがくずれてきたという。危機感が高まっております。それから中東においてもご承知のアフガン侵攻以来、
イラン、イラクあるいはパキスタン等を含んでソビエトの出かたにたいへん西側は警戒の色を深めているわけであります。我が国の海を隔てた極東ソビエトの動きも北方4島の問題のほか海軍力の増強や戦略兵器の新たな展開などがみられ、世界の全般の動きの中でけっして見逃がしえない情勢ではなかろうかと思うわけです。
1−2 80’ 圧年代中期の危機
ソビエトに関し、よく西側筋で1980年代の中期ごろが、ひとつの危険な時期であるということが云われておりますが、そのひとつの理由が、この今申し上げました多額のGNP対比の軍事費を投入して軍事努力を続けていく。
1985〜1986年ころがひとつのピークに達するということであります。反面、これは皆様方のほうが専門と思いますが、ソビエトのかかえておりますいろいろな国内的な弱点もまた、見逃しえない要素ではなかろうかと思う訳であります。
ソビエトで大きな問題は労働力の不足というのが非常に強く最近指摘されており、第2次大戦で公称約2.000万人くらいの人的損害を出したといわれておりますが、その時代の影響をうけまして労働人口が非常に減りつつあります。ソビエトの毎年の就業人口は250万人くらいだといわれているが、1982〜1983年、1984〜1985年になりますと、激減するといわれ一説では50万人くらいに減るのではないかと言われております。
しかもソビエトの人口の約50%がスラブ系であとの50%がいわゆる少数民族、回教族を含む民族であります。そうしますと、労働人口が50万に減って、しかもその対象人員のかなりの部分が少数民族出身者になります。こういうことになると非常に間題が大きくなるわけでありまして、特に工業関係の労働者の所要が多いのに対して、少数民族の人たちはどちらかというと従来、遊牧農業関係にたづさわっている人々が多いので、そういった工業関係には必ずしもむかない。希望もしない。こういうことで非常に労働人口が減っていくであろう。これがソビエトのかかえている数年後の大きな問題であろう。それから2番目は農業の不振ということ。これはみな様よくご存知のとおりであります。
1年おきぐらいに凶作がくる。本来、ソビエトは寒冷な気候の土地が多いので、非常に不安定な農業生産である。多額の農産物を西側から輸入しなければならない。こういった農業問題がますます深刻になるのではなかろうかと思われます。
それから3番目は、真疑のわかれるところでありますが、
アメリカのCIAの推測がひとつでております。これは石油の間題でありまして、現在ソビエトは日産100万バーレルぐらいの石油を輸出している。石油輸出国でありますが、CIAの予測によると、
80年代の中期にはソビエトは石油輸入国に転落するかもしれないと、非常にショッキングな推測を先般だしたわけでありますが、これはほかの西欧筋の特にスウェーデンあたりの見積では、それはありえないんだというような反対の推測もあるわけでありますが、いづれにしてもソビエトの石油問題というものが、
どう推移するかということは注目すべきことであります。1985〜1986年頃ソ連が石油輸入国に落ちますと、ソビエトの東欧衛星諸国、あの中では石油を生産できるところは、たしかルーマニア一国であると思いますが、その他の衛星国では、すべてソビエトから石油を輸入している。
ソビエトの供給がむづかしくなりますと、東欧諸国がエネルギーの面で問題をおこすと、それがひいてはつねづね対ソ不信のある東欧諸国がどうなるであろうかという問題もありまして、ソビエトの抱えている国内問題も見落としえないと思います。一方80年代中期あたりに西側の軍事努力が実を結んでまいりまして、ソビエトと西側の軍事バランスが西側の方が有利にたつという時期が80年代の後半に来るのではなかろうか。そうすると、ソビエトとしましては現在のバランスを西側の有利に渡す前に何等かの手をうたなければならない。こういう見方をする人が多いわけであります。それで、ソビエトの選択は何かといいますと、ひとつはまたふたたび西側と和解といいますか、平和共存といいますか、
ソビエトとしては1歩引き下がった外交姿勢に移らざるをえないであろう。また別の見方からいいますと、こういったバランスのくずれる前に何か軍事的な手をうつんではなかろうか。そのへんが一般に1985〜1986年中期の危機緊張の時期であろうというふうな見方を西欧諸国、特にアメリカはしております。
2. 西側諸国の対応
2−1 西側諸国と日本の防衛費
そこで、そういう了見下でいったいアメリカとか西側はどういうことをしているかということを若干お話ししたいと思いますが、先ほどもお話ししましたが、アメリカはだいたい1965〜1975年の10年間に、ベトナム戦争というムダなお金を使って威信も失墜しましたし、国民の愛国心もやや消磨をしてまいりました。たいへん苦しい、むづかしい時代が続いたわけでありますが、だいたい2〜3年前からようやく立ち直りまして、軍事努力を再開しております。アメリカは81年以降国防費で年率実質4.1〜4.5%くらいのアッブ率で努力をするということを決定いたしております。
また、NATO諸国も78年5月に年率実質3%の軍事努力の増加をしていこうという約束をしております。こういう西側の努力の中で我が国はどうか。最近よくアメリカの圧力とかいうことが言われますけれど、これだけ西側の自由圏諸国の防衛努力にもかかわらず、我が国はどうなのか、というのが外から見た場合の批判であります。
そこで先ほどの図1をもう1度みていただきますと、 ソビエトは11〜13%のGNPであります。中国は別にいたしまして、アメリカ79年度比5.2%、
イギリス4.9%、 フランス3.9%、西ドイツ3.3%、 イタリア2.4%、我が国のところを見ますと0.9%と西欧先進国に比較し極端に少ない防衛費であるということが判ります。
そこでつい最近でございますが、1月19日にアメリカの新しい1982年度の国防報告が出ておりますが、その中で日本に関する部分が述べられております。若干メモしてまいりましたので読んでみますが、英文の訳でありますので、やや日本語的でありませんが、
こういうことを言っております。
『ソビエトの脅威に関する認識の高まりと米国が単独で全自由諸国の安全を守れないという認識から日本国民は防衛増強の必要を受け入れるようになり、日本は自衛隊の質と戦争継続能力を向上させる長期的、かつ顕著な計画を開始した』この計画というのは最近よく新聞に出ておりますが、いわゆる5・3・中業。
53年度に中期5ケ年間の防衛力の整備の防衛庁内部の計画をつくったわけでありますが、それをさしているわけであります。
『我々はこの努力を称賛し、予定を1年間早めるようにすすめた。日本は将来の防衛努力で我々を助ける大きな能力がある。経済的にどの同盟国と比べても最大の軍事努力拡大能力がある』ということをいっておりますが、『将来の実際的問題は日本が共通の脅威に対応するため、どこまでどれほどの早さで現在の軍事力を増強するかである。したがって我々がすすめている努力は不当でも過剰なものではない。これは日本の限定された防衛的役割を変えようというものではない。我々は防衛能力を向上するように求めているのだ。日本の防衛能力を着実に加速させ顕著に増強することは日本が共通の安全保障利益のためより効果的に働くことを可能にするものである』
非常に、ある意味では高飛車な言い方でありますが、
このくらいのことをアメリカ、あるいは西欧諸国は考えているということが現状であります。
2−2 昭和56年度防衛予算
そこで今、国会で論議になりつつあります56年度の防衛予算について、若干ふれてみたいと思います。関係資料の最初の方を見ていただきたいと思います。
図3に防衛関係費の対一般会計歳出比及び対GNP比が出ております。防衛関係費対一般歳出費を見ていただきますと、昭和30年代には10数パーセントの比率をもっていたわけでありますが、高度成長の時代において、防衛費は非常に率が下がってまいりましてだいたい45〜46年ごろから6%代。ずっとその後下がりまして一般予算の伸びとは裏腹に下降線をたどりまして、55年度に5.2%、56年度は5.3%という比率になっております。
また、GNP比を見ていただきますと、 30年代の一番高い時で1.8%くらいのGNP比でありましたが、これまた下降線をたどり40年代の後半からだいたい0.8〜0.9%で56年度予算要求で0.91%というようなかたちで推移をしてまいっております。
それから図4を見ていただきたいと思います。ここのところでちょっとご説明いただいたのはこれは一般会計歳出の中での主要経費の比率の推移をだしたものであります。さかんに最近、防衛関係費が社会保障費よりも伸ぴ率が上まわっているという論議も出ておりますので、ちょっとみていただきますと、社会保障費が56年度比一般会計の中の18.9%、公共事業費が14.2%、文教科学振興費10.1%、防衛関係費5.1%、こういう比率になっております。
次の図5を見ていただきます。伸び率の推移でありますが、56年度は非常にきびしい財政事情でありますが、一般会計の歳出において9.9%の伸び率。防衛関係費と社会保障費の問題がよく論議されておりますが、防衛関係費及び社会保障費は共に7.6%の伸び率であります。社会保障費の伸び率を上まわるとさかんに新聞に書いておりますけれど、上まわったのは7.6%の下に小さな数字がつくだけの差でありまして、それほど大きく上回っているわけではありません。
文教科学振興4.8%、公共事業費0%という一般会計主要経費の伸び率推移になっております。
次の図6を見ていただきますが、これは防衛関係費の事業別の大きな分け方をしておりますが、ご承知のように自衛隊は志願制度でありまして、志願制度でありますと、給与面においてはかなりの面倒を見なければならない、ということから人件費、糧食費の占める率が非常に高こうございます。最近若干の低下傾向を示しておりますが、それでも55年度の人件費、糧食費が49.3%、56年度で47.1%、こういう数字を示しております。非常にだいじな装備品等の購入費でありますが、従来10%台の数字でありましたが、ようやく56年度の予算の要求額において22.5%とようやく2割ちょっとのお金で装備品等をかえる。こういうようなかたちになってまいりました。
2−3 わが国の防衛上の欠陥
そこで話題をかえまして、よくマスコミで防衛力の増強、予算の伸びということで何か、陸・海・空の自衛隊の戦力強化をやっているんだと、一般の方々は受けとめがちなのですが、私ども内部におりました者としては、それはまちがった見方ではなかろうかと思います。現在の陸・海・空の現状を見ますと、いろいろな点に欠陥がございます。ご承知のように高度経済成長の時代、防衛問題というのは政治の場でタブー視されまして防衛問題をとりあげて論議しますと、審議はstop
して他のいろいろな事業に影響するということもございまして、防衛に対する政治的関心も非常に薄かった。反面、アメリカの圧倒的な軍事力の庇護のもとで防衛努力をそんなにしなくても、安全は保たれてきたというのが過去の経緯ではなかろうかと思います。それが1977〜1978年頃からこういうことでは問題があると、内外から提起されて最近の論議の時代に入ってきたと私は見ております。したがって防衛力の整備も過去においては何か非常に遠い将来に目標をおきまして、それにむかって少しずつ積み上げてきているというのが自衛隊の現状でございまして、遠い将来に向って徐々に積み上げてきたということは、
もし近い将来に何かおこった場合に対処しえないいろんな欠陥を今、包蔵しているともいえます。
したがいまして防衛費にはお金がかかりますが、私たちが見ますところでは、今もっているいろいろな欠陥を早急に埋めるべきだと思います。
80年代の中期に危機があるかどうかということはなんともいえませんけれども近い将来に何か状況が変化した時に防衛力というものが、最小限に対処できるようなバランスのとれた力にもっていかなければならないということを痛切に感じるわけであります。
そこで、それでは、陸・海・空自衛隊が抱えている問題、あるいはご紹介がありましたが、民間との関係においていろいろなすべきことがたくさん残っているのが現状でありまして、その辺の一部分をご紹介したいと思います。
(1) 人の問題
防衛庁も55年度の防衛白書を昨年夏に発表いたしましたが、初めて防衛庁自衛隊の抱えている問題点、欠陥を卒直に表明しております。その中にもとり上げられております要素を含めまして、若干のことを申し上げたいと思います。
ひとつは人の問題であります。最近その武田統幕議長の例の憲法徴兵問題等が論議に上っておりますが、自衛隊の根幹は人であります。人の要素でひとつは非常に募集に苦しんでおります。その原因は端的に申し上げると最近の家庭は核家族化がすすみまして、だいたいどこの家庭でも2人くらいの平均のお子さんだと思います。その中の一人が男性だと仮定します。その人たちは一股的に言いまして家の後継である。そういうことになりますと、やはり家業を継がせたいということから裸になって自衛隊ヘ飛びこんでこようというような対象の若者が求めにくい。適令人口の中における対象者となりうる人が非常に少なくなっているということが言えます。
もうひとつは、予備的な勢力が非常に微弱だということになります。現在、北部方面隊の人員を申し上げますと、定員約5万に対して約80%の充足でございます。定員5万で約4万、というのが北海道の自衛隊の状況でございます。他の方面隊にまいりますと、もう少し充足の率が下っております。理想を言えば100%の充足が欲しいわけでありますが、これは募集と裏腹でありまして100%欲しいから大蔵省に人件費の100%をよこせと云っても大蔵省から「おまえさんのところそんな目標を掲げて人間がそんなにとれるのか」という反論が必ず出るわけであります。それから仮にとれたと言うと言葉が悪うございますが、募集で100%確保できたとしましても先ほど申し上げましたように人件・糧食費の占める率がまたそこで上るわけでありまして総わくをおさえられておりますと、その分は物件費といいますか、装備品費のダウンということになるわけであります。このへんが非常に悩みでございます。予備勢力の問題は予備自衛官という制度があることはご存知かもしれませんが、陸上自衛隊の例をとりますと現在39,000人の予備勢力であります。
18万の勢力に対して39,000人という数字はいかにも少ないわけでありまして、もし情勢が緊迫しまして、北海道の自衛隊の定員を急速に100%に上げられなければならないということになりますと、当然本州、四国、九州から隊員を充する。そこで穴のあいたものは予備自衛官を招集して埋めるということになるわけでありますが、予備自衛官そのものも年々歳々、これは自衛隊の退職隊員でありますから年令はとっていく。はたしてそれが力と発揮できるであろうか。という問題がございまして、本来ならば実勢力とトントンぐらいの予備勢力が欲しいところでございますが、なかなか予備自衛官が増やせない。月に数千円のわずかな手当てしかでませんし、あまり魅力のある予備自衛官制度でありませんので、なかなか自衛官の退職者も予備自衛官になりたがらない。仮に予備自衛官制度を拡充して、ペイをよくしようとすればすぐ人件費にはねかえってくると、こういう悩みを人の面では抱えているわけであります。
(2) 装備及び訓練の問題
それから装備の面で申しますと、陸上について申しますと北海道は比較的新しい装備を早めに導入いたしておりますけれど、なかなか定数を満たしていない。また、特に大砲の類はまことにお恥ずかしいことながら、第2次大戦あるいは朝鮮戦争型のアメリカの供与の武器をまだなだめすかしながら使っているというのが現状でありまして、たとえば大砲の射距離をひとつ比較いたしましても、だいたいソビエトとかあるいは西欧諸国の野戦砲の射程は20km〜30kmとどくのが通常でありまして、陸上自衛隊は平均して15km。長いので20kmいかない。こういうような射程の例をとりましても時代におくれた装備で隊員は努力しているというのが現状であります。海上自衛隊の問題をとりあげましてもいろいろな任務をもっておるわけであります。ひとつは戦略、物資の輸送等のいわゆる海上護衛という任務をもっております。さらにはいろいろ海峡沿岸の封鎖の機雷を設置する。あるいは相手の投入した機雷を処理するという沿岸のいろいろな防備の関係。こういった多面的な任務をもっているわけであります。ご承知の四面環海の我が国において、現在の海上自衛隊の力をもってすれば、そういったいろいろな任務のうちの単一任務をはたせるのがせいいっぱいでなかろうか。海上護衛ひとつとっても必ずしも充分ではない。北海道にもし何ごとか緊張がおこった場合に海上自衛隊の勢力がいったいどのくらい北海道の近海に投入できるのであろうかということになると、まことにおさびしいといいますか、問題が多いわけであります。
航空自衛隊の例を若干申し上げたいと思うわけでありますが。航空自衛隊も私、堂垣内知事さんからもズバリと数年前に指摘されたわけでありますが。千歳の飛行場に行っても「自衛隊さんの戦闘機は丸裸でおいてますね」ということを知事さんからご指摘をうけまして、まことに顔を赤らめた記憶がありますが、およそ航空基地におきまして飛行機を丸裸で出している国はありません。ようやく最近、千歳基地に航空機のシエルターをいくつかつくる予算がついたときいておりますけれど、
まさに基地の防護というものはほとんどゼロに近い。それから全国に20数カ所のレーダーサイトが日々領空侵犯の航空機の監視警戒をやっておりますが、あれもごらんになってわかるとおり丸裸であります。仮に一撃うけたらレーダーサイトの機能は停止をするとこういうような非常にお粗末な状況であります。つぶれた時に機能を代替するために移動のレーダー隊も航空自衛隊は用意しておりますが、わずかに2個隊くらいしか持っていない。
それから最近ようやく予算費を認めていただいたわけでありますが、
レーダーサイトの死角をぬって入ってくる低空の航空機に対して対処する力が不足しております。ようやくご承知の若干政治問題になりましたが、E2Cという空から警戒する警戒機の予算をつけていただいた。というような状況でありまして、数をあげればきりがないわけであります。こういうような欠陥を持っている3自衛隊、この状況をアメリカは我々以上によく
承知しております。しかるがゆえに、アメリカとしては日米安保条約で共同防衛するのだが、
もうちょっと隆々たる大国の日本が自分の防衛の欠陥を埋める努力をしたっていいじゃないかというのが、いつわらないアメリカの気持ちではなかろうかと思うわけであります。
だいぶ時間がせまってまいりましたが、そこでさらに自衛隊の後方支援の問題、あるいは民間との関連の問題にふれたいと思いますが。
後方の問題につきましてもたとえば、弾の備畜が非常に少ない。これは数字は聞き流していただきたいと思いますけれど、自衛隊の中で仮に北海道のどこかに小規模の侵略があった場合に、いったいどのくらいの弾がいるんであろうかという試算、
シュミレーションをやってみたわけであります。だいたい10数万トンくらいの弾がいるという数字がでました。
現在の自衛隊の弾の備蓄を考えましてもだいたいその半分くらいしかない。というのが現状であります。現在、その弾の生産問題もさることながら、たとえば弾薬庫を増設する。あるいは新設するといってもこれだけ開発された国土の中で新しい施設を特にこのような施設を求めるということは、民間の関係で問題があるわけであります。
しかし、防衛庁としても最近弾薬の備蓄というものは非常に重要だということで、全般にはきびしい予算の中でも比較的充分な予算をつけてもらっています。
ところが、今度は入れものがない。入れものをつくるのにも現在もっている防衛庁の施設内ではとてもたりないという時代がここ数年後には出てくるのではなかろうかと思います。
現在北海道には富良野の近くの多田というところに弾薬庫がございます。それから白老、日高、あと小さい弾薬庫がまだございますが、そういったところに施設があってその防衛庁の施設内で拡充をやっておりますが、いづれはたりなくなる時代がくるんではなかろうか。そういった問題も後方支援の問題では非常に頭を悩ましているところでございます。
それから教育訓練の例を申し上げますと、演習場の不足、あるいは航空自衛隊の訓練空域の制限というものもたいへんなものでございまして、陸上自衛隊でたとえば先ほどちょっと大砲の話もしましたが、やり先が長くなければ相手に対抗できないわけですが、仮に20km以上の射ていを持つ大砲が装備されたと仮定しますと、現在の陸上自衛隊の演習場で20kmの射ていをとれる演習場はありません。別海、矢臼別演習場がせいいっぱいつかって1
2km〜13kmで、しかも東西にとにかく限られた弾着地域にしかうてない。射的屋みたいな射げきになるわけですが、方向をふってあっちうったり、
こっちうったりということはとてもできないわけです。で、こういった新しい兵器が欲しい、導入したい。近代化したいという願望とはうらはらに装備された場合、いったいどこでうつんだという悩みがでてきております。西ドイツも同じような悩みを持っております。西ドイツはたしかカナダに演習場を借りておりまして、毎年交替1個師団ぐらいがカナダへいってカナダの演習場あるいは射げき場で訓練して帰ってくる、
とこういうことをやっているわけで、我が国のたてまえから言って部隊上げて外国へ持ってってやるということが、はたして政治的に可能なのかどうか。これまたひとつ問題があるわけでありましてあげてまいりますと、非常な制約下で努力をしているというのが現状ではなかろうかと思います。
3. 北海道の交通と防衛
3−1 本土との交通
だいぶ時間がまいりましたので最後に北海道をとりまく情勢下の交通輸送の問題の中で若干の面にふれさせていただきたいと思うわけであります。
私ども北海道の防衛任務を持っておりましたところ一番頭の痛いネックである。しかもなんとか解決しなければならないと思いましたのはやはり本土との交通の問題であります。端的に言えば、情勢緊迫し、あるいは何か危機が起こった揚合に青函の交通をいかに確保するかということが最大の悩みでありましたし、現在もおそらくそうであろうと思います。情勢が緊迫してまいりますれば当然在道の自衛隊の部隊だけでの対処では可能ではありません。したがって本州からの人員装備の増加というものが当然起こって参りますが、現在平時の場合の輸送能力を見ますと、青函連絡船あり、あるいは民間フエリーが最近非常に発達してまいりましたが、
こういったものしかないわけであります。この見地から私共としては青函トンネルの完成というのは防衛上の見地から見たら、まことにありがたく、乱目して待つ事業であると思います。実は笑い話というと失礼でありますが、前の国鉄の北海道総局長の鈴木さんの御案内を受けまして、私在職間、青函トンネルを他の方々と拝見させていただきましたが、鈴木さんもなかなか元気のよい方でいろいろ貴重な御意見をいただきました。その際鈴木さんのお話で外国の方々が視察にまいりますと、一番最初に言われることはこの青函トンネルは防衛目的が第一番ですね、ということを外国の方が言われる。ところが受け答えされるこちらの方々はどちらかというと、目をパチクリという状況が何回かあったそうであります。外国人の一般常識からいいますと、当然北海道の安全ということにかかわりあいのあるプロジェクトである。それが第一の理由で青函トンネルが作られたとみるわけでありますが、我国では必ずしもそうではなかった。あれを作る段階で防衛上の配慮なんてものは、おそらくほとんどなかったと思われます。幸いにして新幹線と在来線の共用というようなお考えですすんでおられると承っており、防衛上の見地からあの青函トンネルの価値というものを十分見直していただきたいと思います。北海道の観光開発も結構でありますが、平時有事を通じてのあの太いパイプをいかに維持管理していくかということも十分お考えいただければと思います。
防衛的見地から見ますと、トンネル自体は非常に強いものであると思いますが、出入口が非常に弱いと思います。出入口が閉塞されますと機能喪失ということになります。又、休電の問題あるいは排水の問題いろいろ機能の問題、私は素人でありますからわかりませんけれど、そう云ったことも含めて将来の対策をしっかりやって頂きたいと思います。
それから本州からの重車両の輸送の問題があります。戦車を含む重車両の輸送能力は海上自衛隊に約6倍くらいの輸送艦をもっておりますが、これも一回運ぶのに一個連隊の人員装備くらいしか運ぶ能力しかありません。もし緊急な事態が起こった場合は、当然民間の輸送力に依存しなければならないと思います。現在発達しておりますフェリー輸送は有事の場合を考えましても、大変価値のある輸送方法ではなかろうかと思います。もっともフェリーボートそのものはそういう重車両を主体に運ぶためには、若干の改装とか許可、措置がいります。また港の方でもそういった重車両を上げるためには、いろいろな手を入れなければならないと思います。今はまだ時期が悪いかもしれませんが、将来の問題としては是非そういう要因も考え、場合によってはフェリー会社に対して若干の補助をするというくらいのこともあってもいいのではないかという感じを持っております。
それから、先ほど弾の問題が出ましたけれども弾の荷役が許される港湾が非常に限定されております。平時から検討をして有事の場合の弾の荷役作業のできるような港湾あるいは区域の準備が必要ではなかろうかと考えます。
3−2 道 路
道路の問題について、背梁山脈を超えての交通路は代替経路も含んで何本か欲しいというのがいつわらぬ願望でありまして、特に道東地区に私どもも何回か車でまいりましたが、非常にネックが多くございます。日高経由ヘ行きましても大変途中難じうをする所が多く狩勝を通ってもそうであります。将来道路開発を考えられる場合防衛上からはなるべく経路を異にした、代替道路が望ましいと思います。それからお考えいただいておりますけれども、大都市のバイパス道路は絶対必要であると思います。これは必ずしも防衛上の見地からだけではなく、大規模災害等が起こった場合も大いに重要であると思います。逐次整備されておりますけれども、大都市にはバイパスあるいはベルトウエイといったものを作って欲しい。これは防衛の場合は非常に役立つと考えます。
それから橋梁が私どもが重車両を通す場合に、非常に苦しい所でありますが、現在の国道、道道等にかかっております橋梁は残念ながらかなりのものが、戦車等の重車両が通れないというところがございます。これは噂に聞いたわけでありますが、西ドイツの使用橋梁はだいたい加重60トンに耐える橋梁をつくっておるということでありまして、西ドイツの持っております戦車の一番大きいのが、約50トンでありまして、戦車でもどんどん通れると聞いております。それから合わせて申し上げますと、高速道路の出入口あたり、非常に出入口がネックになるわけでありますが、防衛上の見地から申し上げれば、高速道路の出入口あたりの道幅は広いほうが望ましい。これは当然のことでありますけれども。
それから気になりますのは防衛上の問題のみならず災害等が発生した場合に一番問題になるのはマイカーの処置ではなかろうかと思います。従ってマイカーの規制についてこれは場合によっては個人の権利侵害というようなことにもなりかねないことでもありますが、マイカーの非常の際における規制を平時から準備をして、決定をしておく。極端に言えばマイカーを一切通行をさせないような処置も必要ではなかろうか。いやなことでありますが、仮に緊急事態が起こった場合、自衛隊の防衛行動と避難をされる住民の方々が錯綜してとても現在の情勢ではまともなことができないであろう。非常時になってから、非常措置を考えても遅いわけでありまして、平時からこういった問題は真剣に研究をしていただきたいと思います。
3−3 鉄 道
次に鉄道の問題でありますが、最近防衛庁が、運輸省に対してローカル線廃止について特定の路線を上げまして反対の意向を表明したということが、若干の新聞にのっておりましたが、確認いたしましたところ、その通りのようであります。国鉄さんにとってどういう受けとめ方をしておられるか、わかりませんけれども鉄道の近代化あるいは合理化というのは防衛上から見ますと、ある意味では若干のデノリットが出てきているというのは、事実でありまして一例を上げますと電車、電化が進んでますが、電化がすすみますと、電源を切られた場合、一体どうされるのだろうか。素人の見方でありますけれども電化区間にあってもたとえばジーゼル車を常時、何両か準備しておくと云うような事も必要ではなかろうか。これは素人考えでございますのでまちがっていたら、御指摘いただきたいと思います。それからローカル線で特に荷物駅の廃止の問題で、私ども困りますのは御承知のように道内たいへん辺ぴな所にも自衛隊の部隊あるいは演習場が散在しておりまして、これらにたとえば戦車を送りこむ、装甲車を送りこむということになりますと、国鉄さんに依存をしている率が非常に高いわけでありまして、
これらがなくなりますと、代替の輸送手段をとらなければならないというようなことから、防衛庁はおそらくいろいろ御無理を申しておるのではなかろうかと思います。以上断片的な意見を申し上げましたが、平時の開発事業あるいは大型のプロジェクトの場合にもうボツボツ防衛警備上の要請というものを考慮粂件の重要なファクターとして考えていただけないだろうか、
と考えます。
3−4 開発計画における防衛的フアクター
私も現職の時にある新聞記者の方から質間を受けました。北海道にはいろいろな開発計画がありますけれども、総監、その検討段階で御相談ありますかと聞くので、いや、とてもとてもそんな所までいっておりませんというようにお答えした記憶があります。例えば新しい道路を通すということになると、いろいろ住民の利害関係がからみますので、たまたま近傍に防衛庁の施設があるとその中をスーッと通ると、まあこれは言っていいかどうかわかりませんが、島松、千歳、恵庭の演習場をごらんになると高速道路が通っておりますがあれは恵庭地区では演習場の中をブッブッブッと切って走っている訳であります。そうすると演習場は切られているもんですから、演習場の端っこに小さな飛地がいっぱい出来ております。これは大変に訓練に役立たない恰好になっております。
それから幌別の部隊の近傍を通って室蘭から伸びる高速道路の計画がありまして、あれも又、民有地を通るといろいろ折衝に難しいでしょう。自衛隊の用地を通らせろというようなこともございまして、私も現職中、いろいろと折衝にあづかった訳でありますが、大変安易な方向で住民とトラブルはイヤだから、自衛隊ならあれはおとなしいから、すぐ云うことを聞くだろうというようなことでブッタ切られると、泣き寝入り。極端にいうと、そういうことが、過去あったわけであります。どうかこれからはそういうことではなく、新しいプロジェクトはいったい防衛瞥備上プラスであるのか、マイナスであるのか、というようなことももう、お考えになっていただいてもよい時代でなかろうかと、大変勝手なことでございますけれども希望を新申し述べて私の話を終わらせていただきます。
(前北部方面総監) 文責一編集部